「どうして兵助は あの人と仲が良いんだ?」

最近 このような事を頻繁に訊かれる


あの人、こと さんは 貿易商の娘と名乗っていても やはり異色の存在だ
あまり見かけない構造の着物を身に纏い 泥に塗れる事も無さそうな白い肌を露わにしている
本人は「別に色白じゃないんだけどなぁ」なんて 言っているが 俺達から見たら充分白い


「…会話をする機会があったから会話をしているだけで 仲が良いという訳では」
「そうかぁ?俺達ただでさえ女っ気の少ない環境なんだぞ、近距離で話したら 俺 本気になりそう」

同級生の男は そう言って溜息を吐いた

「どうして 兵助には機会があって 俺には無いのか」
「……そういう下心丸出しの奴には機会が回ってこないという この世の道理、とか」
「…お前には これっぽっちも下心が無いのか?」
「あー、無いな」
「……兵助の成績が何故良いか 少し解った気がするよ…」


まず 女を女と意識しすぎるのは 忍としては正直終わっていると思う
色恋という雑念など 今の自分には要らぬ物だ

次に 理解に苦しむ夢物語のような事を真実だと話す女に 下心が湧くか
下心の前に 疑念が湧くに決まっているだろう


「で、あの人はどうして学園に居るんだ?もっと凄い場所にも簡単に行ける身分だろうに…」
「……贅沢者の暇潰し、そんな所だろ」
「よく話している割には 印象悪いんだなぁ、実はあの人の事 嫌いなのか?」


違う、なんとなく 彼女には 下心丸出しの野郎共と係わってほしくないんだ
彼女の持つ あの独特の雰囲気を この乱世で汚すような展開は好ましくない


「別に 彼女の事は嫌いじゃない」












さんは 学園長に戴いたらしい饅頭を頬張りながら 木陰に座っている
そんな暇人の彼女に放課後 俺はまんまと捉まって 今に至る

昼寝でもしようかと思っていたのだが…




「で、久々知君は居るの?ガールフレンドは」
「・・・・?」
「彼女よ、彼女……愛するおなごは」

結局 彼女も色恋沙汰の類が好きらしい


「こんな日常で いつ作れと…」
「くの一教室だっけ?女の子がちらほら居るでしょう」
「人数も少ないし年下の子が多い…そもそもそこまで接点がある訳じゃない」
「なぁんだ」

その残念そうな顔こそ 何だ


「いつ死ぬか分からない この世を生きる為の術を身につける事に 今は必死だよ」


彼女は どう返答すればいいか分からない、そんな表情をした


「…私の生きる時代は 此処に比べたら随分…いや相当平和なんだと 再確認したわ」

さんは 戦が絶えないこの時代に相応しくない人間だと思う」






悪気があって言ったのではなかった
別に 彼女を此処から追い出すつもりは毛頭無かった

ただ 平穏な時代で生きている彼女がこんな場所に居る事はおかしい、そう思っただけだ




そのやり取りを交わしてから一週間が経過した

彼女は 俺達の前に現れなくなった






04 7days








あの科白 的を得ているだけに 余計に腹が立つ

私の身体には確かに現代日本の“平和ボケ”が染みついている
もしも 槍で側面から襲われたとしたら 避ける術を考える前に刺されてしまう気がする



「・・・御尤もすぎて 悔しいわ」


カレーせんべいを頬張りながら 私は寝転がってテレビを観ている
傍から見れば 夏休みらしい なんとも微笑ましい図であろう

テレビは やぱり面白い
進化し続ける文明には感謝してもしきれない



「かれこれ最後に飛んでから一週間経つぞ?…そうやってダラダラしながら過ごすのかね」

じいちゃんが呆れた顔を私に向けて そう言った

「…いやぁ、素敵な所だと思ったんだけどなー……」
「元々 その時代には存在していない筈の奴に 居場所があると思ったか?」
「……そりゃあ…そうだけど」


私は あの場所に魅力を感じた
だから居場所を求めようと試みた――久々知君を使って

彼の前に突然現れた私は 彼の居場所に無理矢理居座ろうとしたんだ


「トリップばかりしていると リミットがすぐに来てしまうから奨めはしない」
「…………解ってるよ…」
「だがな 友達が増えるというのは良い事だ、後悔はするんじゃないぞ」



大切な事を 忘れていたのかもしれない

心が繋がって 初めて友達なんだよね


「じいちゃん…どうすれば乱世に生きる少年と友達になれるのかしら」
「……そんな事を訊かれてもなぁ…」
「…無駄な時間を過ごしてる場合じゃないよね」



蝉時雨の中 カレーせんべいの袋を抱え 腰を上げた


「後悔したくないから」











*  *  *











一週間振りに 彼女が俺の前に現れた

娘さんが見当たらない!と騒ぎになりかけていた所だ、丁度良かった



「これ…お土産」

そう言ってさんは 随分と匂う黄色い煎餅を 差し出した


「私 久々知君の迷惑にならないようにするから」

「…急にどうしたの?」
「貴方に依存しすぎた、ごめんなさい」


彼女は この一週間で随分としおらしくなっていた





この後から “依存”を止めた 彼女の行動が始まった







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(09.7.23 自分から居場所を確保しなきゃ)